決断

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 ・  一睡もできないまま朝日が上った。その太陽を見たとき、カイはいままで見たどんな日の出よりも美しいと感じた。  深い緑の木々の隙間から少しずつ上る光。空は薄いオレンジ色から水色へとグラデーションを描(えが)いている。美しく壮大で、神々しささえ感じる。汚れがひとつもない空だ。  カイは踏みつけた靴の踵(かかと)を人差し指で引っ張ると、きちんと履き直した。無意識に深呼吸をして、この空の光を心に刻んだ。きっと、この景色を死んでも忘れないだろう。  ルシアの小屋への道を辿る。一歩一歩踏みしめるたびに少しずつ変わる景色を注意深く見た。いつもとなにも変わらないのに、まるで知らない場所を歩いているようだった。短い距離がとてつもなく長く感じる。  自分はあと何回、この道を行き来するんだろう。  小屋のドアにゆっくりと手を掛けた。  ドアを開けると既にヴィダルもそこにいて、二人が待っている。  二人の瞳がカイの視線を受け止めた。彼の答えを待っている。  カイの顔にもう迷いは見えない。  カイは二人に近づくとはっきりと告げた。 「レダを守りたい。俺と一緒に死んで欲しい」  ルシアとヴィダルはほとんど同時に答えを返した。 「喜んで」     
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