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穏やかで冷たい朝の風が、不格好な窓から吹き抜けていった。緊張を纏(まと)っていた空間に一寸の余裕が生まれる。
カイはその冷たい風を飲み込むと、ルシアに向けて静かに口を開いた。
「俺は百年前に怪我をしたヴィダルを助けた。それが元で彼の母さんと契約を結ぶことになった。俺は頼んだんだ。ドラゴンがもう人間を食べないようにして欲しいって」
ルシアはカイが何を言いたいのかわからなかったが、これが自分が聞く彼の最後の言葉になるのだと、両耳に全神経を集中させた。
「ヴィダルの母さんはレダにドラゴンが近づけないよう壁を……結界を張ってくれた」
その時ヴィダルは目を見開いて息を飲んだ。
剣(つるぎ)が闇を切り払うように、一瞬にして世界が白く輝きだす。
カイが目の前にした2つの選択肢。
苦しい選択となりそれは心の牢獄になる。即(すなわ)ち檻。カイはルシアのように檻に囚われていた。どちらを開けたとしても苦しみを渡される。考えても正解は誰にもわからない。
だがカイはこの瞬間についにその檻を開けた。しかし、その2つの答え以外の鍵を彼が見つけ出したことを、ヴィダルはこのとき理解した。
カイは少し申し訳なさそうに、ヴィダルの顔を横目で見る。
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