檻の鍵

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 カイが右手を差し出してルシアを待っている。手のひらにできているマメ、所々にある薄い傷跡、適度に日に焼けたしなやかな腕。見慣れたはずのそれは、いつもより鮮明に目に映る。そこには鉄格子がない。それに、どうやら望めば触れられるらしい。  ルシアの体は震えた。腰が抜けてそこにへたりこんでも、壁にひっついたままそこを動けずにいる。  カイは檻の中へ一歩、踏み込んだ。一瞬で空気が変わったのがわかった。そこはもうレダの中。だがカイは負傷することもなく歩みを進めることができる。ルシアのとなりでカイは彼女に視線を合わせるように腰を下ろした。そこから檻の外を眺める。  暗いじめじめした石畳の壁の世界。真ん中に開いた出口から見えるのは、明るい光が差し込む無様な部屋。いくら時間や天気が変わろうとも代わり映えのしない、つまらない景色。部屋の窓を閉めればそこも真っ暗に終わる。カイはその景色から目を反らすことなくルシアの背中にそっと手を置く。改めてルシアの絶望を知る、地獄がこんなに近くにあったとは知らなかった。  カイは戸惑うルシアを抱き抱えた。驚くほど軽い。食べ物だけではない、外の空気も、希望も、美しい今朝の空も、何も体に入っていないからこんなに軽いんだとカイは思った。     
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