檻の鍵

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 ゆっくりと檻の外へ出る。ルシアは縮こまって、目だけをキョロキョロと動かした。ヴィダルが開けてくれたドアを潜ったとき、二人の顔に柔らかな光が差す。ルシアは息を飲んだあと、ぎゅっと目を閉じた。同時に、カイの服を小さく掴む指にも力が入る。 「ルシア、見ろよ」  ルシアが目を恐る恐る開けると、まず目に入ったのはたくさんの緑だった。檻の中で聞いていた、木の葉が風に揺れる音、今はすぐ近くで聞こえる。それに、その様子が目で確認できる。次に見上げたのは空。こんなにも広かった。見渡す限りの青空に終わりは見えない。白い雲が何かに引っ張られたように、薄く長く伸びている。 「自分で立てるわ」  そう言ってルシアはカイから離れると、地面に足をつけた。柔らかな草を踏んだ瞬間、足元から一気に冷たい風が吹き抜け、心を濡らした。風に香りがある。じめじめとしたかび臭い匂いではない。新鮮な空気、緑の香りだ。 「夢みたい」  ルシアの2つの瞳から、真珠のような大粒の涙が頬を伝った。彼女は緑の地面に体を横たえる。目を閉じて世界の音に耳を傾けた。   ・  ヴィダルは元々壁があった方を眺めていた。もうそこに障害物はなく、緑の木々が広々と続いている。すぐそばには古城も見える。 「盲点だった、こんなやり方が残されていたことを気付けなかったとは」  ヴィダルは小さくウィンクをするとカイに微笑んだ。 「ごめん。お前の母さんに悪いことした」     
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