檻の鍵

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「そんなこと誰も気にしてないさ。それに、時には他人の事を気にしないで自分のやりたいようにするのもいいと思う、君ならば」  この期に及んで母のことを気にしていたことを、実に彼らしいとヴィダルは思った。母の全ての力を注いで交わした契約を一方的な理由で取り止めにしたのだから、後ろめたいと思う気持ちがまた彼を苦しめるかもしれないことを、ヴィダルは懸念した。誰もそんなこと気にしちゃいないのに。自分ですら、このやり方を見つけ出したカイに感謝しているくらいだ。 「ヴィダル。始めてくれ」  カイの声に我にかえったヴィダルは、その身を本来の姿へと戻した。カイは一気に空気の温度が上昇するのを肌で感じ取る。  ヴィダルが二、三回翼をはばたかせたあと、カイは彼の言葉を受け取った。  ――レダの国をここではない所へ移動させる。環境はほぼ同じに、ドラゴンや危険のない世界だ。過去に君が私の命を救ってくれたことを制約の一部にしたかったが、それはもう母が使ってしまった。私は君が死んだあと、君の魂を譲り受けたい。いいか? 「いいよ」  カイは何の疑いもなく頷く。その表情には悩みも戸惑いもなく、ただヴィダルへの信頼の色だけが浮かんでいる。  ――ルシアを連れて国に入るといい。間もなく移動を始める。急げ。     
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