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ルシアが幸せだと言ってくれたことが、カイにはどんな言葉よりも素晴らしく嬉しい詞に思えた。自分がルシアの幸せを奪ってしまったことをずっと考えていたからだ。最後に彼女を少しでも幸せにすることができたなら、もうあとは"ほとんど"いらないのだ。
「……まいったな」
カイは顔を赤くすると照れ隠しに頭を掻いて目をそらしたが、その視線の先に呆れた顔(カイにはそう見えた)のヴィダルがこちらに冷たい視線を向けていることに気づき、飛び上がった。もちろん、"ほとんど"にはヴィダルは含まれていない。
「ここにいて」
そう言い残すとカイは転がるようにヴィダルの元へと走った。
――私の存在を忘れていたな。
カイはありありと動揺の色を浮かべた表情で答えた。
「お、お前のこと忘れた時なんて一瞬もないぜ」
――ハハ。 で、どうするんだ?
「俺達、ここに残るんだ。残りの時間を三人で過ごそう」
ヴィダルの紅い瞳が燃え上がった。
さらにカイの周りの気温が上昇し、一瞬だけ炎の渦がカイとヴィダルを取り囲んだように見えた。
――わかった。それでは、契約成立だ。
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