檻の鍵

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 カイの家のすぐ近くに生えているリンゴの木の下に座り、ルシアは空を見上げている。彼女はこの場所をすぐに気に入った。カイはこのすっぱい実しかつけない木をあまり有難く思ってはいなかったが、ルシアはそうではなかった。  特に何も世話をしていないと彼は言っている。にも関わらず、惜しげもなく大きな実をたわわに実らせる。毎日だって食べても飽きない。こんなに素敵なことが外の世界にあるのだということに驚きを隠せなかった。    あのときルシアが死を覚悟したのは難しい事ではなかった。もちろん長く生きすぎたという事実も要因にはあったことにはあったが、もっと大きな理由は違うところにあった。  自分は城に生まれた者であり、行く行くは国を治める立場にあった。そうなる前にその権利を失ってしまったとはいえ、あの頃の自分にはそんな自覚すらもっていなかった。ただフワフワと毎日を過ごしていただけだ。カイに出会ってから、そのことを無性に恥ずかしく思った。自分は、森のはずれにこのような仕事をしている少年がいたことさえ知らなかったのだから。  レダを守ろうとしたカイを尊いと思い、ヴィダルの言うとおりにすることが一番いいことなのだと悟った。そのための代償の一部が自分の死だとしても、何も後悔はないと、心からそう思ったのだった。  ・        
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