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ヴィダルの母との契約を破棄したことにより、あと少しの寿命がさらに短くなったことを、カイは本能的に理解していた。きっとヴィダル自身もそう長くはないだろう。
ここにいる3人の誰もが、現在何の枷(かせ)もなく解放されていて、幸せを噛みしめている。そして全員が、この2人と少しでも長く共に過ごしていたいと感じていた。
――あと少しだけでもいいから……。
だが、それを口にするものは一人もいなかった。
・
深夜、何度も寝返りを打つカイをヴィダルは気にしている。静かに、音をたてないようにカイはベッドを抜け出し庭に出た。
満月だった。眺めていると吸い込まれそうに感じる。周りの風の音が一切聞こえてこないほどに、美しかった。
「眠れないのか」
後ろからヴィダルの声がして、カイは驚いて振り返る。
「ごめん、起こしちまったか」
ヴィダルは優しく微笑んで、首を横に振った。
「俺、この命が終わった後も、お前とルシアに会えるかな」
「会えるさ」
悩む様子もなく断言するヴィダルの横顔を、カイは見つめる。
「私が君の魂を持っていくからな」
「持っていく? どこへだよ」
ヴィダルは吹き出して笑った。
「あの世」
「……は?」
カイはヴィダルと契約を執り行ったときに、自分の魂を代償として彼に捧げたことを思い出した。
「お前どんだけ俺の事好きなんだよ」
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