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「まあね。だがここで断ったらきっとマチルダに死ぬまで文句を言われ続けるだろう。見つからないうちにさっさと終わらせようじゃないか。俺だってカイを助けたい気持ちはある」
そのマチルダはもう仕事を済ませて帰ったようだったが、ミーケルは心からスーパに感謝した。
・
馬を走らせ壁まで近づくにつれ、何かの声が聞こえてくる。ミーケルは聞き覚えのあるこの声に焦り、馬の走りを速めた。
「マチルダ! 何しとんねん!」
ミーケルは余裕のなさからおよそ1年ぶりに田舎の言葉を発した。
「こんな遅うに一人で……! 危ない! はよ帰らな(アカン)」
馬が止まるより前にミーケルは飛び降り、マチルダに駆け寄った。
彼女は壁にもたれて泣いている。
「どうしたんだ? ケガしてないか?」
マチルダは首を横に振った。スーパも何事かと遅れて二人に近寄る。
「どんなに呼んでも返事がないの」
鼻をすすりながらそう呟く。
ミーケルとスーパは、この大きな壁を黙って見上げた。カイは、生きているんだろうか。
きっと近くにいるのに、気配すら感じ取れない。この壁の向こうにいるはずなのに。
「カイ!!」
ミーケルはありったけの声で叫んだ。その声はカイに届くことなく、巨大な壁に吸い込まれていった。
「こんなものがいつの間に出来たんだ? 一体誰が……」
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