4人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
ミーケルは暗い気持ちで酒場のドアに手をかけた。ここで前みたいに三人で飯を食うことも、もうないというのか。
カイに最後に会ったのは数週間前だった。いつものように、約束をするでもなくここへやって来ては同じテーブルで食事をする。たったそれだけのことだった。いまこの状況に置かれてみれば、それがどんなに自分にとって価値があるものだったのかが、イヤというほどわかった。
「辛気くさい顔しないでよ」
向かいに置かれた椅子が動く音がした。顔を上げるとマチルダが困ったような顔でそこに座っている。
「その調子じゃ、あんまりいい返事がなかったってことね」
ミーケルは思わず眉をしかめた。マチルダはこんな時に情緒を安定させていられるような、しおらしい女じゃなかったはずだ。
「見せて」
ミーケルは黙ってカイからの手紙を彼女に渡した。マチルダが手紙を読み進めるうちに、徐々にその眉尻が下がって行くのがわかった。
だが、彼女は泣かなかった。
「とりあえずは無事みたいね、少し安心したわ」
顔は全然そう言っていない。
「俺、城に仕えるのを辞めようと思う」
ミーケルのその突然の告白に、マチルダは一瞬その言葉の意味がわからなくなった。
「突然何を言い出すの。辞めてどうするの?」
最初のコメントを投稿しよう!