3/6

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 ミーケルは暗い気持ちで酒場のドアに手をかけた。ここで前みたいに三人で飯を食うことも、もうないというのか。  カイに最後に会ったのは数週間前だった。いつものように、約束をするでもなくここへやって来ては同じテーブルで食事をする。たったそれだけのことだった。いまこの状況に置かれてみれば、それがどんなに自分にとって価値があるものだったのかが、イヤというほどわかった。 「辛気くさい顔しないでよ」  向かいに置かれた椅子が動く音がした。顔を上げるとマチルダが困ったような顔でそこに座っている。 「その調子じゃ、あんまりいい返事がなかったってことね」  ミーケルは思わず眉をしかめた。マチルダはこんな時に情緒を安定させていられるような、しおらしい女じゃなかったはずだ。 「見せて」  ミーケルは黙ってカイからの手紙を彼女に渡した。マチルダが手紙を読み進めるうちに、徐々にその眉尻が下がって行くのがわかった。  だが、彼女は泣かなかった。 「とりあえずは無事みたいね、少し安心したわ」  顔は全然そう言っていない。 「俺、城に仕えるのを辞めようと思う」    ミーケルのその突然の告白に、マチルダは一瞬その言葉の意味がわからなくなった。 「突然何を言い出すの。辞めてどうするの?」     
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加