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例えば、カイが檻の中に一人きりで閉じ込められていたとしても、きっと自分と同じように死のうなどとは決して思わなかっただろう。きっと、暖かな家庭で素敵な両親に愛されて育った。それが彼という人間を通して透けて見える。この人物は、素直でとても実直だ。そんな雰囲気をルシアはカイから受け取った。
「ごめんなさい。ご両親のこと……辛いことを聞いてしまいましたね」
「気にしないで。俺が勝手に話したんだ。こっちこそごめん」
ルシアは一瞬ためらってから、自分の服のスカートの部分をめくりあげた。白い素足があらわになる。
「えっ」
カイは咄嗟に目を反らす。
「カイ、これを見て」
「いや、でも」
「これなの、私が閉じ込められた原因は」
ルシアが檻に閉じ込められていた理由を話したくないという意思を、カイは最初からなんとなく気付いていた。話したくないというより、思い出したくないと言った方が的確か。それは彼女にとってとても辛く悲しい過去であり、そうしたくなるのは当然だった。そのルシアが、今その過去を伝えようとしている。
今はそれに向き合おう。けして、やましい気持ちなどないのだから、見ても大丈夫だ。何しろ相手は若い女性ではなく、百を越えた婆さんなのだ。大丈夫、俺は落ち着いていられる。
カイは自分の心に言い聞かせてルシアの方に向き直った。
次の瞬間カイは息を飲む。
「えっ……これって」
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