ルシア・上

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 慌てたビルギットの叫び声だけが部屋に残り、ルシアが彼女の方に目を向けた時にはすでに廊下でせわしない足音が響いていた。  ここ数年でルシアの父である王の病状は急速に悪化していた。五年ほど前までは健康そのものだったというのに、今では見る影も無くやつれている。  その王についている医者がルシアの部屋までやって来た。彼は元々城に仕えている者ではなかったが、王が体調を崩し始めてから城へ研究部屋を用意され、ここ数年仕えている。  医者はルシアの足を見てぎょっとした。  ビルギットは心配そうに少し離れた所でこの様子を見ている。 「このような症状は初めて見ましたな……。少し調べてからまた伺いますが、他にどこか痛むところは?」 「ないですわ。この痣も、痛みはないし」 「そうですか。文献を調べてからまた伺います。……では」  それは五分とかからない診療だった。  ビルギットはすぐさまルシアに駆け寄り励ましの言葉をかけた。 「姫様、きっとすぐによくなりますよ。ご心配なさらず……。今日はごゆっくり休まれてはいかがですか?」  当のルシアはそんなに気にしていなかったのだが、ビルギットの慌てようを見て少し心配になる。 「私は元気よ。そんなに心配されると不安になってしまうわ」     
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