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ルシアの足の痣を診た、かの医者は研究部屋の書棚を漁っていた。所狭しと並んだ医療に関する書物には一切手をつけず、彼が目を皿のようにして眺めていたのは得体の知れない魔術の書だった。にわかには信じがたいその内容に目眩を覚える。魔物と契約を結んだ者の身体の一部に現れる印。契約を行い対価を得るための代償。魔物の召喚の儀式。本当か嘘かわからない。一度本を閉じ、深くため息をついた。
この本の内容が信頼できるものだったとしたら、あの姫は何かしらの魔物と契約を結んだということになる。契約の内容は他言できないらしいと本には記されてあり、馬鹿馬鹿しいが少しばかり興味はある。どうにかして調べる方法はないものか。
この医者の名はヘルマン。そしてヘルマンは退屈だった。
王専属の医者として城へ仕えてはいるものの、もうあの王も長くはあるまい。
ヘルマンは王の治療などしていない。ただ毎日怪しい薬の研究をさせられているだけだ。
もちろん城に仕えるまではこの国でも五本の指に入るほどの医者だった。今でも傷付いた兵士の怪我を癒やすこともある。だが、王の治療はしていない。ヘルマンは、王のそばに忍び寄る影に魂を売ったのだ。
「姫様……申し訳ございません」
あからさまにしょんぼりと項垂れているビルギットを見て、ルシアは何事かと驚く。
「町から名医を手配させようとしたものの、お后様が許可をおろしてくださいませんでした」
「気にしないで」
ルシアはビルギットに優しく笑いかける。
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