ルシア・上

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 ヘルマンは王の寝ている部屋へと向かっている。毎日午前と午後、決められた時間に診察をするのがヘルマンの仕事だった。診察と言ってもするのはもっともらしいフリだけで、あとは薬と偽ったトウモロコシの粉を与えるだけだ。ドアの前にいる兵にその重い扉を開けさせると、静けさしかないベッドの方へと歩みを寄せる。 「待っていましたよ、ヘルマン」  美しく気品はあるがどこか冷たい声が、ヘルマンの瞳を緊張の色に塗り替えた。 「いらしたのですか、陛下」  后妃がベッドの横の椅子に腰かけてこちらを見据えている。 「……ルシアの診察をしたそうですね。あれに何があったのです」  決して娘を心配している声ではない。 「姫様の脚に奇態な紋様が……。なんでも、今朝突然気がついたら現れていたようです。」 「で。それは何なのですか」  ヘルマンは気まずそうに王の方を見やった。どうやらよく寝ているようだ。 「私にも今まで診たことも無い症状でして。不確かな情報ではありますが……」  ヘルマンが先ほど読んだ本に書いてあった内容を説明すると、王妃の口角がわずかに上がった。 「まるきり信じていると言うわけではありません」 「なぜ?」 「魔物と契約だなんて聞いたこともないですし……」  王妃はとても面白そうに笑ってみせる。 「笑わせる……、お前自信が悪魔と契約していると言うのに」  ヘルマンは、ここで王妃と一緒に薄気味悪く笑えば格好がつくのにと思ったができなかった。王妃の闇にこれ以上近づくと飲み込まれてしまう。     
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