嵐のあと

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 頬を伝う嫌な汗が、顎から滴り落ちた。  固く閉じた目をゆっくりと開けてそこから穴を見下ろす。そしてぎょっとした。  今度はよく見えた。なぜならさっき見たものが、今度は鉄格子のすぐそばまで来ていたのだ。  カイの思考は止まり、驚きのあまり声もでなくなった。ただ目だけが動き、そこにいる者をはっきりと映す。若い人間の女に見えた。こっちをじっと見上げている。  透けるような金の髪は所々泥で汚れている。細く白い指が長い髪を掻き分けると、異様なほど蒼白い顔が覗く。小さな顔にひときわ目立つその大きな瞳は、輝きを忘れただそこに存在しているだけだ。  元々は上質だったであろうその身に付けた衣服も、いまや汚れたただのボロ布になっている。 「……人間なのか?」  カイはそう思わず呟いた。人間を見るのはずいぶん久しぶりだったし、自分とはまるで違う容姿に戸惑った。森に住むエルフか何かの話をかつて母親に聞いたことを思い出したのだ。  その者の体はひどく痩せこけて、もう何日も何も食べなかった時の自分の体を思い出した。 「……君は誰? なぜこんなとこに?」  カイは話しかけた。  だが返事はない。     
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