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アールクヴィストは姫を抱えたまま歩き続ける。ルシアは目で訴えかけるが、そんなものに答えてくれそうな雰囲気は微塵も無い。時々下の方からガシャンという乱暴な音がした。おそらく彼が脚で金属の柵か何かを蹴り飛ばしているのだろう。
「あなたに恨みはないが、主命により蛮行をお許しください」
言葉とは裏腹に、その顔には下等な笑みが浮かんでいる。
アールクヴィストは階段を何度か降りると、地下牢の扉を開いた。重たい鉄の扉だ。その扉に申し訳程度に開けられた窓には、鉄格子が三本取り付けられている。さび付いた扉の錠前はまだ機能しているようだ。
牢の中は、石畳の床。突き当たりの壁は鉄格子で埋まっている。その外は土だ。長い年月を経て城の壁は崩れ土に埋まったのだろう。それを思うとルシアはぞっとした。この牢ですら近いうちに崩れて土に埋まるかもしれない。アールクヴィストの腰にぶらさげた明かりは頼りなく、隅々まではよく見えない。ただ、カビくさい湿った匂いだけが鼻を刺激した。
ルシアは牢に入れられた。石畳の長椅子のような所にそっと寝かされる。
何かの悪い冗談でしょう?
ルシアはそう思った。むしろ、これが現実だとはどうも思えない。
自分はたちの悪い夢でも見ているんだ。そう考えたが、空気、感触、肌に突き刺さるこの温度。そのどれもが現実的だった。
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