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笑顔
【210年】
檻のすぐそばで静かにルシアの話を聞くカイの方から、時折鼻をすする音が聞こえる。ルシアは過去を語る自分の顔がどんなに暗く映っているのか、考えるのも恐ろしかったのでカイの顔は見られずにいた。
話を終えた後顔をあげるとそこには、涙で頬を濡らすカイがいる。目が合うと彼は決まり悪そうに早急に腕でその滴を拭った。
「……」
言葉も出ない。
ルシアの過去は無惨と言う他なかった。
どんなにつらかっただろう。
悲しかったろう。悔しかっただろう。
カイは自分の思うどんな励ましの言葉をかけたとしても、なんの足しにもならないことを考える前から理解した。
胸の奥から黒くて大きな嫌な塊が込み上げてくる感じがした。それは涙となって二つの目から溢れた。
……なんで俺が泣いてんだ。
「言いにくいことを話してくれてありがとう」
どんよりとした気持ちでやっと捻り出た言葉が情けなくもこれだった。
「ごめん、俺、何て言ったらいいか……」
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