笑顔

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 カイの心情とは裏腹に、ルシアの心は幾らか晴れている。今までに、自分のためにこんなに心を動かしてくれた人がどれくらい居ただろうか。カイの瞳から溢れる涙は、紛れもなく自分に向けられたもの。ルシアの乾ききった心にその涙は心地よく染み込んでいく。 「謝らないで。私が勝手に話したんですから」  この笑顔は作り笑いでも社交辞令でもなく、心からの笑みだった。  ・  カイはスープを煮ながらルシアの話を思い出していた。そういえば、ルシアという名前をどこがで聞いたような気がしたが、それもそのはず彼女は王宮の姫だったのだ。自分が小さな頃から母親にイヤというほど聞かされて育った、『あんたは姫様と同じ日に生まれたんだよ』という台詞。聞きすぎて百年たった今でも、その声と抑揚を鮮明に思い出せる。女王陛下と同じ日に息子を産んだ。それが彼女にとってはとても誇らしいことだったのだろう。と言うことは、自分達は紛れもなく同じ年齢だったということだ。重なる共通点。ただの偶然なんだろうか。  カイは、ルシアをなんとか外へ出してやりたいと、そう思った。でも彼女がもし契約者なら、それは無理だ。だがなぜ契約をした覚えもないのに彼女には契約印があるのだろう。それだけが不思議だった。     
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