笑顔

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 鍋が吹き零れる音で我に返る。カイは慌てて鍋を火から下ろした。姫様に出す料理としては質素きわまりない。そう考えてふと思う、姫様に酸っぱいリンゴを食べさせたなんてことをもし母親が知ったら、なんて言うだろう。ホウキで頭を叩かれるくらいじゃ済まないかもしれない。  所で、このスープにはたくさんの具を入れた。いつもはこんなことしないのだが、今日は特別だ。何と言ったって、姫様に食べさせる料理。失礼なことはできない。琥珀色のスープを彩るのは、鮮やかな色の数々のキノコ。これはカイがここ数十年で、自ら体を張って調べた、完全に毒がないと言いきれるしかも美味なきのこ。きのこの毒の有無を調べるには、死んでも生き返る体を有益に利用することだと後にカイは語る。 「すごくおいしいです。これ本当に、あなたが作ったの?すごいわ」  ルシアは予想以上に喜んでくれた。半分はお世辞だろうとはわかっていても、やっぱり誉められると嬉しい。むしろ半分どころか全部お世辞だろう。  誰かのために料理を作るなんていう事は、人生で初めてのことだった。 「ごめんな、店もないからこんなものしか作れないんだ」 「十分素敵なご馳走だわ。こんなにおいしいお料理を頂けることなんてもうないと思ってたから……」     
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