ぬくもり

1/5
前へ
/151ページ
次へ

ぬくもり

 最初はずっと泣いていたんです。もうこれ以上は涙がなくなってしまう、という位に。それはもう毎日毎日泣いていました。私が一番気がかりだったのは、侍女(ビルギット)の事でした。アールクヴィストが言ったように、私のために本当に殺されてしまったのか。辛くて仕方ありませんでした。それに父のこと。病気の父はどうしているか。それだけが気掛かりで……。でもある日突然涙が出なくなってしまったのです。何も考えられなくなって、心が乾いたみたいでした。それからずっと、何も考えずに、ただ暗闇の中で座っていました。もう完全に人の心を失ってしまったのです。アールクヴィストが言うように、私は悪魔になってしまったんだとそう思っていました。  それから何年もたって、今日こうしてあなたが私を見つけてくれました。外からの光がいっぺんに降り注いできました。あなたのあの驚いた顔を見た途端、自分でも気がつかないうちに百年止まっていた涙が溢れ出していました。きっと声を出したのも本当に久しぶりで……。そのとき、まだ涙が残っていたんだ、自分にもまだ人間らしい心が残っていたんだ、と思えました。そう思ってから、ますます泣いてしまいました。     
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加