ぬくもり

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 自分がまだ城に居た頃、何度か貴族の男性が訪ねてきたことがある。彼らはルシアとの婚姻を目的に、彼女のご機嫌をとっていた。  ただ彼らの目に彼女自身は映っていなかった。彼らが見ていたのは彼女のその向こうにある、地位と名誉だ。  なのにカイと来たら、もう何も持っていない、あまつさえここから出ることすら叶わない自分にどうしてこんなに構うのか。完全に何も見返りがないというのに。 「気にすんなって。俺、何か作るのが好きなんだ」  そう言い残してカイは家に道具を取りに走った。  次の日も、その次の日も次の日もカイは家を作りにルシアの元へ通った。もちろん食事の用意も一日三度きちんと怠らない。  ルシアには段々と申し訳なさが込み上げてくる。何か手伝えることがないかと提案してみたものの、野菜の皮剥きは人生で初めての事で手は血だらけになるし、カイはそれを見て顔が青ざめ、すぐにナイフを取り上げた。無駄に人生を浪費している割には野菜の皮すら満足に剥けない自分を心底恥ずかしく思った。檻の中に住み、やることと言えば食べるだけ。これでは家畜と同じだ。いや、乳も肉も卵すら提供できないのだからそれ以下だった。  頬に伝う汗をぬぐいながら昼食を持ってきたカイを見ると、とうとう居たたまれなくなり、ルシアは告げる。     
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