奇妙な客・上

3/7
前へ
/151ページ
次へ
 気のせいだろうか? ドアをノックされることなどまず有り得ないからだ。カイの体は石のように固まってしまった。  外から雨の音が激しく聞こえている。ドングリか何かが風で飛ばされてドアに当たったんだと思った。それ以外考えられない。  カイはホウキをとることを忘れ、また椅子に座り直した。ほどなくしてまたあの音が聞こえる。  トントン、トン。  カイの血液が激しく波打つ。誰かそこにいるのだろうか?  こんなことはこの百年のうちに一回たりともなかったのに。誰か他の人間が、俺以外の人間がこんなところに居るなんて有り得ない。そう思って生きてきたが、先日ルシアと出会った。何事にも例外はあるものだ。  カイは恐る恐るドアに手をかけ、ゆっくりと開けた。  そこに居たのは人間の男だった。  カイの全身には鳥肌が立ち、驚きのあまり声もでない。  歳は15,6位だろうか? まっすぐにカイの顔を見据えるその少年の切れ長の瞳は、燃えるように紅かった。さっきまで炎を見ていたのだと言われても疑わないほど、その瞳には赤や黄色ががチラチラと光って見える。彼の洋服は、カイが見てもわかるほど上質なものだった。少し癖のある栗色の髪は雨に濡れて、顎からは冷えた滴がポタポタとしたたっている。   その彼が、遠慮がちに口を開いた。     
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加