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「突然申し訳ありません。道に迷いここまで来てしまいました。雨宿りをさせていただければ助かるのですが……」
カイの心臓は激しく飛び上がった。
「どうぞ」
それだけ言うので精一杯だった。カイはその少年を椅子に座らせると、震える手で髪から順に拭いてやった。少年は黙ってされるがままになっている。なんで俺はこんなことしてるんだろう、とカイは思った。体を拭くようにと渡してやった布を、彼は受け取らなかったのだ。仕方なくカイはこの役を買って出た。
やはり位の高い人間なんだ。物怖じしないその態度や、綺麗に切り揃えられた艶のある毛先を見てカイはそう思った。一通り拭いてやると、その少年は咳払いをし、静かに口を開いた。
「ありがとう。私の名はヴィダル。君は?」
「カイです。ヴィダル様は何処から来られたのですか?」
温かい飲み物を差し出されたヴィダルは、目を丸くさせてカイの顔を見た。
「様なんて、寄してくれ。そんな丁寧な言葉を使わなくていい。世話になってるのはこっちの方なんだから」
今度はカイが目を丸くした。
「本当に、世話になってるのはこっちの方なんだ」
絞り出すように、重苦しい雰囲気を纏って出てきたこの言葉の真の意味を、まだカイは知らない。
「なんで二回言うんだよ」
カイは笑ってヴィダルと呼んだ。
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