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「ずっと遠くの街から」
先程の質問に答えるヴィダルは少し曇った表情を見せる。
「一人で来たのか? 何しに? その街はここからどれくらい離れてるんだ? 歩いてきたのか? 他に人間は見なかったか?」
矢継ぎ早に質問をするカイに、ヴィダルは目を二、三回しばたたかせて順に答える。
「一人できた。馬に途中で逃げられたんだ。他の人間は見てないな。それで、気を悪くさせたらすまないが、それ以外の質問には答えられない」
「え……なんで?」
「私自身もよくその答えがわからない」
カイは思った。貴族の考えていることはよくわからないと。自分が何しにここへ来たのかわからないだって? そんなことある?
ヴィダルの方をちらりと見た。彼は、なにか変なことを言っただろうか? とでも言わんばかりの不安で居心地の悪そうな顔をしている。そんな顔を見るとカイは逆に申し訳なくなって、話題を変えることにした。
「ヴィダルは何歳なんだ?」
ヴィダルはまた考え込むような顔を見せると、目を泳がせて答える、たぶん君と同じくらいだ、と。
カイはそうかと笑った。きっと、あまり自分のことを聞かれるのが好きじゃないんだ。カイはそう考えて、詮索をするのをやめた。
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