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「そうだ、腹減ってないか? ごちそうはないけど……」
カイが台所に消えてしばらくすると、スープを持って現れ、スープの皿にスプーンを突っ込んでヴィダルの目の前に置いた。ヴィダルは膝に手を置いたまま目を丸くさせて、湯気がほかほかと上がるスープを見つめた。心なしか表情がほころんで見える。
「熱いうちに食べな」
ヴィダルはカイの声でやっと我に返った。
カイは食べないのだろうか、正面に座ってこちらを見ている。ヴィダルはしばらくの間、スープとカイを交互に見つめた。
「こういうの、嫌い?」
なかなか料理に手をつけないヴィダルを、カイは心配そうな顔で見つめている。
「あ、いや、そうじゃない。すまない、ありがたく頂くよ」
ヴィダルはスプーンを見て少したじろいだ。
「綺麗なスプーンだね。珍しい色だ」
それは金属でできているようだった。青みがかった、艶のある材質だ。
「それ、母さんが大事にしてたやつなんだ。お客さんが来たときはこれ出しててさ。いつもは木のやつだけど」
ヴィダルは意を決したようにそのスプーンを握った。だが次の瞬間、苦痛に顔を歪めてその手を振り払ったのだ。
「熱い!」
スプーンは勢い良く飛び、床に転がった。
「大丈夫か!?」
「すまない、大切なスプーンを……」
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