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「それより何か手伝うことはないか? ずいぶん世話になってしまっているからな」
「病人にさせることなんかないよ……」
「私は健康だ。そうだ、狩りでもしてこよう」
そう言い残すと、ヴィダルは一人で出ていってしまった。少しして帰って来た彼の両手には、すでに精肉にされた何かの肉があった。
「な何、これどうしたの?」
「これがウサギ、こちらはトリ」
「皮までとってあるじゃん……どうやって」
ヴィダルは得意気に微笑むと、立てた人差し指を唇に当てた。
「なんなんだお前……」
「今日は私が料理を作ろう、君は座っていてくれ」
カイは落ち着かず、座ってなどいられなかった。いつか見逃した埃がまた目に入る。とりあえずホウキを取り、床を掃いた。
部屋の隅に固まった綿(わた)のような埃を一ヶ所に集めながら、カイはキッチンの方を見た。扉が閉まっていてヴィダルの姿は見えない。けれども、料理をしているとは思えないほど静かだ。
カイは、ヴィダルが来た日の事を思い出していた。
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