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馬に逃げられたと言っていたが、荷物すら持っていなかった。遠くの村から来たらしいが、一体どんなに遠くからやって来たのだというのだろう。馬を失ってはもう戻ることすら困難ではないのか。見たところ、武器も持っていないようだし……。下手すれば普通の人間ならドラゴンに襲われたっておかしくない。
待てよ。武器を持っていないのにどうやって狩りをしたんだろう。
そう思い付いて、頭を振った。
「……やめだ、やめ」
自分にだって人に隠していることがある。
ましてや聞かれるのを嫌がっているものに、自分が無理に詮索していい権利などないのだ。
「待たせたな」
キッチンの扉が開いた。ヴィダルが両手に皿を持ってこちらへとやってくる。皿から上がる湯気でヴィダルの顔がよく見えない。同時に、部屋一杯に香ばしい香りが充満した。
「すごくいい匂いだ……」
一体ヴィダルは何を作ったというのだろう。
テーブルに置かれた皿を見てカイは溜め息を漏らした。
何とも得体の知れない料理がそこにはあった。今までに見たこともないものだ。そして食欲を大いに刺激するこの香り。腹の虫がいっぺんに騒ぎ出すのを感じた。
「うまそう!こんなの初めてだよ、お前の国の料理なのか?」
「私たちは料理などしない……」
カイはヴィダルの顔を見た。
またおかしな事を言っている。
ヴィダルはカイの間抜けな視線に気付き、言い直す。
「私の国の料理だ、食べてくれ」
「それじゃ、いただきま……」
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