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「ヴィダルです。この世界に神が居ないと確信できました。神が居れば貴女のような天使を無惨に檻に閉じ込める筈がない」
「まあ……」
カイはそのヴィダルの台詞を聞いた瞬間に、自分の全ての歯が抜け落ちるのではと感じ咄嗟に顎を押さえた。
楽しい夜だった。
ルシアと2人だけの日々もそれは楽しかったが、そこに一人加わるだけでこうも雰囲気が違うのか。カイはそう思い、どこか懐かしい感覚を微かに思い出す。
それはまだ壁ができる前。ミーケルとマチルダと、三人でよく夕飯を共にした。二人はきっとラックスの酒場で食事をする理由はなかったのだけど、カイのうぬぼれでなければ、自分を気遣って誘ってくれた。
他愛もない話で大笑いしていると、両親を亡くした悲しさもいくらかまぎれた。あのときの暖かな空気に似た、穏やかで優しい雰囲気がそこにはあった。
カイの家に戻った二人は、後片付けを済ませて寝る支度を始める。カイが部屋の明かりを消して布団を顎までひっぱり上げたとき、いつもは何も聞いてこないヴィダルが初めてカイに質問をした。
「彼女は君の恋人なのか?」
カイは驚いて思わず上半身を起き上がらせて、暗さで見えもしないヴィダルの顔(のある辺り)を見る。
「違うのか?」
「違うよ」
「そうか。……でも君は彼女に心を寄せている。違うか」
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