ヴィダルの秘密・上

2/6
前へ
/151ページ
次へ
 カイがヴィダルの指先に視線を移すと、そこには毒々しい色の小さなキノコが群生していた。持っていたつるはしで周りの草を避け、じっと観察する。 「これはだめ、毒キノコだ」  途端に興味を失ったような顔をして、ヴィダルは黙って歩き出した。  いつ、話をしてくれるんだろう。カイは歩みを早めた。ヴィダルと肩を並べ、彼の顔を見る。ヴィダルは自分の足元を見ながら黙々と歩いていた。何か考え事でもしているんだろうか、少し深刻な顔をしている。もっとも、ヴィダルは普段から大抵深刻そうな顔をしていたが。  二人はしばらく黙って歩いていた。宛てもなく、ただ足の向く方へ。緩やかな坂道を少しずつ上ると、気持ちよい風が吹き始める。  ヴィダルは風に誘われるように足を進めた。カイの額には少しずつ汗が滲むが、ヴィダルは涼しげな顔をしている。  程々に高い場所まで上り詰めた二人はどちらともなく歩みを止めた。  ヴィダルは崖の際に立って、そこから下に見える森を見渡す。目を閉じて風とその匂いを感じた。すぐ近くの木々からは鳥のさえずりが賑やかに聞こえる。 「懐かしい」  ほんの小さな声で呟いた彼のその言葉を、カイは聞き逃さなかった。 「前にもここに来たことがあるのか?」  ヴィダルはその質問には答えず、代わりに優しい視線でカイの目をじっと見て言った。 「豆は採れたのか?」 「見つからない」     
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加