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カイは深い溜め息をつくと、その場に腰掛けた。ヴィダルは相変わらず崖から下を見下ろしている。
「あれは?」
突然ヴィダルが声をあげる。カイがヴィダルの指先を見ると、そこには青い花が美しく咲いていた。崖のすぐ下だ。
「花の名前なんかわかんないよ。でも、綺麗だな」
「ルシアのように?」
ヴィダルが真顔で冷やかす。
「からかうなよ……」
赤くなったカイを見てヴィダルはクスリと笑って言った。
「フフ、すまない。お詫びにあの花を摘んでこよう。君が彼女に渡せば喜ぶだろう」
王子様みたいな奴だ。カイはそう思った。
花をプレゼントするだなんて、そんな発想はまず自分にはできない。
ヴィダルは上着を脱ぐと地面にほうり投げた。
「待てよ」
カイはそれを見て、背負っていたカゴを置くと言う。
「自分でとる」
花は崖の上から、2mほど下に下がったところに咲いている。足場は狭そうだが、そこまで難しくはない。カイはツルハシを置くと、手で捕まりながら足を花の咲いている足場の方へとゆっくりと下ろした。
「雨で濡れているから気を付けろよ」
「うん」
そう言った瞬間に足場が崩れた。
このときほどカイは自分の事をバカだと思ったことはない、その拍子に驚いて崖の縁を掴んでいた手を、離してしまったのだ。
――しまった。
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