ヴィダルの秘密・上

4/6
前へ
/151ページ
次へ
 その時だけ、一瞬一瞬が紙芝居のように止まって緩やかに流れた。ヴィダルが目を白黒させて、何かをこちらに突き出す。反射的にカイはそれを掴んだ。それは、カイがさっきまで持っていたツルハシだった。  カイがツルハシの柄を掴んだことで発生した衝撃が、ヴィダルの腕に強い負荷を与えた。 「うっ……」  端整な顔立ちが苦痛に歪む。 「ヴィダル……! ごめん」 「そんなこと……言ってる場合じゃない……」  ヴィダルの顔が赤くなっている。  カイはどこか足をかける場所がないかと、首を動かし足元を確認した。あの花は足場と一緒に落ちてしまった。 「……早く上れ、……私はそんなに、……もたないぞ」  確かに、自分も捕まっているだけで精一杯だった。だが足場になりそうな所がない。  上ろうにも、片手をさらに上に動かすにはもう片方の手で全体重を支えなくてはならない。  ……できるだろうか? だが迷っている時間はない。やるしかない。それができなければ、落ちるだけだ。カイは自分が掴まっている先のヴィダルの腕を見た。彼はツルハシの金(かね)の部分を両手でつかんでいる。その手はいつか見たときのように、赤く腫れ上がっていた。 「ヴィダル! 手が……」 「……口より手を動かせ! 変なことを考えるなよ。……話があると言っただろう、このあとすぐ話す。……だから早く上がってこい!」  このままでは二人とも落ちてしまう。     
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加