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俺は死なない、だけどこいつは。
カイは覚悟を決めた。
「カイ!! 早、く……」
「ごめん……しばらく、ルシアのこと頼む。きっとすぐ戻る」
ふと、ヴィダルの腕は軽くなった。ヴィダルは目を疑った。
なんということだ。まばたきの間にカイの姿は遠くなっていった。
「ばか野郎!!」
ヴィダルは今まで生きてきた中で、初めて汚い言葉を口にした。その言葉を崖の上に残し、自身はカイを追う。
頭を下にして落ちていく。この空気の抵抗の中でも目を開けていることが、ヴィダルにとってはとても容易なことだった。周りの景色が一瞬にして流れる中でも、目はしっかりとカイを追っている。
一方カイは目をきつく閉じて衝撃を待っていた。
痛いだろうか、それとも、即死だろうか。
体を酷く負傷して死んだことはまだなかった。
そんな状態でも生き返ることができるのだろうか。
ヴィダルの手は大丈夫だろうか。
あいつの話を聞けなかった。
初めて何かを話そうとしてくれたのに。
そんな事をぼんやりと考えていた。
すると背中に衝撃があった。だがそれは、カイが思っていたよりもずっと早く、そして穏やかな振動だった。まるで木から落ちてきたリンゴを受け止める程度の。
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