ヴィダルの秘密・下

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ヴィダルの秘密・下

 カイの心臓は普段より随分動きを早めていた。最近は心臓によく負担をかけている。  それにしても不思議な光景だ。カイの左右に見える大きな翼は、時折ゆっくりと上下に動いて風を切る。カイは落ちないようにしっかりとその背にしがみついた。  ゆっくりとドラゴンは下降を始めた。顔に当たる風が止み始めると、カイは大きく深呼吸をした。自分の手が震えているのがわかった。  このドラゴンは一体どこから現れた? 俺をどうしようというんだろう。俺はこれからこいつに食べられちまうのか?  カイは先に一度は死を覚悟したはずだったが、これから起こるかもしれない恐怖までは予想していなかった。  もう一度覚悟を決める暇もなく、ズシンと鈍い振動が響く。  着陸したのだ。  カイは、ここから飛び降りてすぐに逃げようかとも思った。それなのにそうしなかったのは、このドラゴンがカイが降りるまで、身動きひとつ取らず静かに頭を地面につけていたからだ。それに、崖から落ちた自分を背にのせて、まるで助けてくれたようにも感じる。  カイを食べる気なら、乱暴に振り落として即座に息の根を止めていただろう。     
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