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カイはゆっくりとその背から降りるとドラゴンの頭の方へと回り込む。とは言ってもやはり恐ろしいので距離は保ったまま。
カイが近くに来たことを感じ取ったドラゴンは、ゆっくりと頭をもたげた。
カイは思わず後ずさった。こうして距離をとっていても感じられるほどの高い体温。鋭い牙が閉じられた口からいくつも覗いている。その牙の隙間から時折漏れる息吹と共に、小さな火の粉がカイの鼻先を掠めた。
ふと脳裏によぎるのは、百年前に契約を交わしたドラゴンだ。本当によく似ている。
だけどあれはもっと、大きかった。
頭を上げたドラゴンの視線がカイの瞳をとらえる。お互いの視線が交差したとき、またヴィダルの声が頭に響いた。
――怪我はないか?
カイは辺りを見渡した。だが彼は見えない。
「ヴィダル!? どこにいるんだ」
――君の目の前にいる。わからないか? 私が……。
カイは目の前を見る。
そこには微動だにしないドラゴンがいる。
自分の目をじっと見ている、紅い瞳のドラゴンが。
「……お前が? ヴィダル……?」
ドラゴンはゆっくりと頷く。
「本当に……?」
どこか浮世離れした人間だとは思っていたが、これでは浮世どころか人間を離れているではないか。
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