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今思えば、スプーンやツルハシを彼が手にしたときに起こった反応は、アレルギーなんかではなく、ズーライトを嫌うドラゴンそのものの反応だったのだ。
――結果的に騙したことになってしまった。
私は怖かった、君に拒まれるのが。それに君が経験した苦しい過去を思うとなかなか正体を話せなかった。すまない……。
カイはまだ信じられない気持ちで、まばたきも出来ずにヴィダルの燃えるような瞳を見ていた。
――これで君に救われたのは二度目だ。思えば、はじめからわかっていたのだ。君が、自分の命をなげうってまで、他人をかばってしまうような善人だと言うことを。
「……二度目?」
――思い出してくれないか? 百年前に君が助けた小さな命を。
カイはそのときの事をよく覚えていた。
忘れたことはなかった。
ただそれが、今目の前にいるドラゴンとあまりにもかけ離れていたので結び付かなかったのだ。
「お前、あのときのチビか?」
|ドラゴン(ヴィダル)の右足に目をやる。
黒く刺々しい表皮の真ん中に、ネズミ色の大きな傷が痛々しい跡として刻まれていた。
もう一度ヴィダルの瞳を見る。カイにはやっとわかった。この恐ろしいドラゴンが、百年前に自分が助けた小さな子供のドラゴンだったということが。そして、自分と契約したあの大きなドラゴンの息子だったということが。
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