カイ・上

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カイ・上

【106年】  思い返せば父から教わったことはたくさんあった。罠の仕掛け方、植物の育て方、木の斬り倒し方。  危険な動物に出会ったときの立ち回り、武器の使い方について、実践はまだだがやれる自信があった、両親がドラゴンに殺されるまでは。  身体能力は高い方だ。反射神経もそれなりに。だがあのドラゴンの前では、そんなものは路傍に転がる石ころ同然に無意味だった。  心が落ち着きを取り戻しても、クロスボウだけは触ることができなくなった。あの時握っていたこの武器を見ると、全身が粟立ち、言い様のない恐怖と罪悪感が込み上げてくる。  あの日、気が付くとカイはベッドの上にいた。あまりの現実に精神が追い付かず気を失ってしまったのだ。介抱してくれた兵士が言うには、自分達が狼煙(のろし)を見つけて向かったときには、もうドラゴンは去った後だったと言うことだった。  残酷な爪痕と倒れたカイだけをそこに残して。 「本来なら、君も殺されているはずだったのに、どうしてか君だけが見逃されたんだな。不幸中の幸いだ。もしかするとご両親がドラゴンに致命傷を与えたのかもしれない」  幸い? ふざけんな。こんなの地獄だ。     
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