カイ・上

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 自分だけ生き残ったって……。  あのまま殺されていた方がずっと良かった。  カイはこの話を聞いてすぐにそう思った。  だが両親が命を懸けて自分を守ってくれた事を思うと、その考えを持ち続けることは裏切りに思え、それからは吐くほど泣いた。  苔むした森をゆっくりと歩く。時は早朝、まだ湿り気のある風と、緑の青臭さが混ざったこの香り、澄んだみずみずしい空気が好きだった。  カイの両親が死んでから数ヶ月が過ぎていた。悲しみはまだ消えないが、徐々に落ち着きは取り戻している。何と言っても周りの人達の暖かさがカイの心に少しずつ安定をもたらした。中でも一際ミーケルとマチルダの存在は大きい。  両親が管理していたこの森は、城の領地だった。この職に危険は付き物で、二人が亡くなった後も国からカイにはそれなりの支援が約束された。カイは随分落ち込んでいたが、両親の生きた証を残すためこの森を守ることが自分の使命だと考えるようになった。それが延(ひ)いては自分を励ましてくれた人達への恩返しにもなる。それに両親と同じように生きてみれば、また彼らを感じられるかもしれない。今は二人の温もりを忘れたくないと思う程に、カイはまだ若かった。     
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