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聞き慣れない音に、カイは歩みを止める。
何か動物の声だった。
声と言っても、掠れていて音がわからない。
ただ悲痛な叫びだということだけが感じられる。
そんなに大きな動物ではなさそうだ。
カイは声のする方に進んでいく。
声無き叫び。太い幹を持つ木の下にあった――いつか父親が仕掛けたものだと思う――動物用の罠、それに何かが掛かっている。黒くて小さいもの。一瞬カイはそれがコウモリに見えた。翼らしきものがある。
辛(つら)そうに叫ぶその顔を見てぎょっとする。大きく開いた口から見えたのは、小さいながらも生え揃った鋭い牙。目眩がした。
こいつ、ドラゴンの子供じゃないか。
カイの父親がもし生きてここに居たなら、迷わずこれを殺すだろう。自分達の脅威になり得るものを力のない内に始末しておくのは当然のこと。
だがカイにはそれができなかった。
どうしてか涙が溢れる。
自分の不甲斐なさに泣いているのか? この小さな生き物を哀れに思ったのか? それともまた別の理由か?
自分でもわからなかった。
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