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罠を外し小さなドラゴンを腕の中へ納めてカイは走った。ドラゴンは抵抗もせず体を縮こまらせていたが、時々爪がカイの服に引っ掛かり、それが気に入らないのか左足だけを激しく揺らした。家に帰って観察すると、右足は深く傷付いていた。怪我をしたときに母親が手当てをしてくれたように、同じ事をその小さなドラゴンにしてやった。人間の薬が効くのか知らないけど。
思いの外ドラゴンは警戒をしなかった。あまりにも小さいので常にテーブルの上に置いておいた。そうしないと蹴ってしまいそうだったからだ。
テーブルにつくと、くりくりとしたつぶらな瞳で首をかしげながらカイの顔を見つめてくる。たまに小刻みに体を震わせる仕草がとても愛らしい。
カイが食事をしようとテーブルに皿を置いたとき、ドラゴンが脇目も振らずにスープの中に頭を突っ込んだのを見て思わず笑ってしまった。
「ごめんごめん、腹減ってたんだな」
皿から顔を上げたドラゴンは口から尖った舌を出して素早く自分の顔を舐め回す。
カイは薫製(くんせい)の肉をなるべく小さく切ってからスープに入れてやった。
翼を大きく広げて無心でその肉を食べるドラゴンを見ていると、カイの心に一点の黒いシミが広がっていく。それは不安であり心苦しさだった。
自分は今、とんでもないことをしているんじゃないのか。
だがこの小さなドラゴンを見捨てたとしても恐らく同じ気持ちになっていただろう、それだけはわかった。
「お前、チビの癖によく食べるな」
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