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「よし……やろう。まずは俺が」
足を止めた先は、程々に高い崖の上だった。この近くの木に鳥の集まる木がある。恐らく巣でもあるんだろう。
カイは背負っていた弓を外した。
父が使っていたものだ。
これなら使えるかもしれないと、確かめもせずに持ってきた。体の前で構える。
すると指先が微かに震え、身体中に冷や汗が伝った。カイは一度矢を弓から離し、袖で額の汗を拭う。動悸が激しい。
「やるんだ」
もう一度構えて弓を引くと、指の震えがより大きなものへと変わっていく。目標が定まらない。それでもカイは持ち直し、矢を離した。
少し離れた木の上に止まった鳥を狙ったつもりだった。だが矢はその木に届くまでもなく、失速して地面に落ちた。ドラゴンはそれをじっと見ていた。
張り詰めていた緊張がいっきに解けた。深く息を吐き出すと共に途方もない疲労を感じ、緑の広がる地に膝をついた。
「……だっせぇな」
いまだ震えが収まらない、濡れた草に突いた手を見下ろしながら呟いた。
チビはじっとカイを見ている。
「見んな」
自分を情けなく感じ、目を伏せた。こんな事も満足に出来ないやつが、何を教えられるというんだ。
木の上の鳥が飛び立った。
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