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「お帰りなさいませ、太我さん。」
私たちに気を使って、少し時間を置いて玄関に現れた小林さんに、兄はちらっと壁に掛けてある時計に目をやった。
「ただ今戻りました、小林さん。こんな時間まで残ってくれていたなんて、終わらない仕事があったんですか?」
「ええ。でも終わりましたから、今日はこれで失礼します。」
そう言って小林さんは、自分のコートを羽織り、玄関の隅にあった靴を履いた。
「家まで送りますよ。」
兄が慌ててカバンから、車のキーを取り出すと、小林さんは首を横に振る。
「いいんです。太我さんこそ、こんな時間までお仕事なさってたんですから、早く休んで下さい。」
そして小林さんは、玄関のドアを開けると、傘をさして歩いて行ってしまった。
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