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「婚約者?」
「いるんでしょう?取引先のお嬢様が。」
階堂さんはうろたえながら、髪を掻き上げた。
「そうか。誰かから聞いたのか?」
「階堂さんの会社の人が、そう言っていたんです。」
「おそらくその取引先から、急に発注が増えたせいだろう。」
こんな一回りも年下の私に、真面目に答えてくれて、階堂さんは面倒な女だと思わないのかしら。
「でも、それももう止めだ。彼女との婚約は破棄する。」
「えっ……」
「君と、出逢ってしまったんだ。他の人とは、結婚できない。」
そんな言葉を吐かれたら、体の中がドキドキしてきて、まともに階堂さんを見る事ができない。
「機嫌、直った?」
そしていつもの温かい口調。
「まだ足らない?」
そしてその温かい手で、私の涙を拭ってくれた。
「君が許してくれるまで、俺はここに通い続けるから。」
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