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森川社長は、隣に菜摘さんがいる事を忘れているように、昔の思い出に目を向けていた。
「だが彼女には既に、夏目社長がいた。出世欲もなくただのお人好しのあいつがな。」
太我と美雨の父親。
俺にでさえ親切にしてくれた夏目社長を、“あいつ”呼ばわりした森川社長を許せなかった。
だが何も言えずにただ黙っているだけの菜摘さんが、ちらっと視界に入って、俺は拳をグッと握って、森川社長の話の続きを聞いた。
「ある時…夏目が仕事で忙しいと言って、彼女一人でパーティーに来た。誰もが彼女に声を掛けた。だが誰一人彼女を口説けなかった。あの人の……凛とした態度が、男たちの野心を遮ったんだ。だが俺は違った。あの凛とした美貌が、快感に歪むところを独り占めしたかった。一度自分のモノにしてしまえば、夏目のことなど忘れさせてしまう自信があったんだ。」
森川社長は酔いながら、だんだん昔の自分に戻って行く。
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