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その次の瞬間、森川社長の表情が、悲しげに変わった。
「数ヶ月後、彼女の子供が流れた事を知った。俺は罪の意識で、もう一度彼女に会って、直に謝りたかった。だが、それもできなかった。」
「どうして?」
今まで黙って聞いていた菜摘さんが、体を横に向け、大声で真意を問いただした。
「久しぶりに会った彼女は、俺との間に何事もなかったかのような態度だった。まるで水に流してと言わんばかりに。」
「そんなわけないでしょう!!」
大声を出したのは、菜摘さんの方だった。
「ああ、わかっている。許してやるから二度と私の傍に近寄らないでとも受け取れた。だがその依然と変わらない態度に、俺は彼女に負けたと思った。完敗だった。」
その悩み苦しんでいる森川社長の姿が、つき先ほどまでの自信に満ち溢れた人と同じだとは信じがたいものだった。
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