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「あっ、ここじゃあ近所の人に、変に思われるから家の中に入って。」
「あ、ああ……」
美雨の申し出は有難いんだが、一つだけ心に引っかかることがあった。
「今日、太我はいる?」
「兄さん?」
なんとなくあいつがいると、美雨と会いにくい。
「ううん。今日は出張でいないわ。」
「そっか。」
自分でも気づかずに、大きなため息をついた。
美雨は家の中のリビングまで、俺を心配そうに手を引っ張ってくれた。
「仕事、大変そうなの?」
「いや……大丈夫だよ。」
無理して笑ったのかもしれない。
美雨にはすぐに、それがウソだってわかってしまった。
「私に力になれるんだったら、何でも言って。愚痴ぐらいだったら聞けるから。」
胸がゆっくりと温かくなっていくのが、わかった。
俺はまた大きなため息をついて、美雨の肩に自分の頭を乗せた。
「敦也さん?」
「ごめんな、重いのに。」
ううんと美雨は首を横に振ると、そっと背中に腕を回してくれた。
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