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そんな事を言わなくても、心使いの利いたおもてなしをしてくれるだろうと思っていたし、何よりも人によって態度が変わる事もないだろうと思っていた。
だが、俺はまだ人を見る目がなかったらしい。
女将は、相手が森川社長だと知ると、途端に態度を変えた。
無理はないか。
森川社長の羽振りの良さは、有名だ。
気に入られ、何度も店に足を運んでもらったら、どれだけ店にプラスになるかわからない。
残念だが、人間は自分に得する者に対しては、惜しみなく頭を下げるものだ。
「女将、そろそろ頼むよ。」
見かねた俺が女将に注文をすると、気のいい返事をして、そそくさと部屋を出て行った。
「あちらこちらに、愛想を振りまいて、忙しい女将だな。」
森川社長はとっくに、女将の真意を見抜いていた。
「悪い人ではないんですがね。」
あれでも、いつも笑顔で迎えてくれる人だ。
その証拠に、すぐにお酒を持って来てくれた。
しかも、一番いい酒。
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