心と体 #3

1/12
前へ
/35ページ
次へ

心と体 #3

スーッと滑らかにワインを開ける仕草は、やはりワインの輸入会社の社長らしく、美しかった。 コルクを開け、その匂いを嗅ぎ、その香りに異常がない事を確かめると、太我は俺のグラスにルビー色の香り高いワインを注いでくれた。 「シャトー・マルゴーだ。」 「俺でも聞いた事がある。」 「ああ。ボルドーワインの中でも特に好きなシャトーでね。」 グラスで乾杯をし、お気に入りだと言うワインを飲む太我は、どこか夏目社長を思い起こさせた。 そして、知らぬうちに美雨が、いなくなっている事に気づく。 「美雨は部屋に戻ったんだろう。俺と階堂を二人きりにさせてくれたんだ。」 太我のそのセリフを聞いて、少し嫉妬を覚えた。 どんなに美雨と愛し合っていても、実の兄との太我と過ごした年数には敵わない。 「階堂。あいつは、いい女か?」 「ああ、美雨はいい女だよ。」 同じ女性を兄の太我は“あいつ”と呼び、俺は“美雨”と呼ぶ。 まるで一人の女性を、二人で取り合っている気分だ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加