優しい雨

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優しい雨

敦弥さんが、突然家を訪ねてきてから、会えなくなってしまった。 兄さんに言われて、棚の奥から兄さんのお気に入りのワインを出して、二人の間にも積もる話があるだろうと、リビングを出たのが最後。 あのリビングを出る間際、敦弥さんの背中を見たのが、目の奥に焼き付いている。 『ただ今、電話に出ることができません。ご用件のある方は…』 何度、この留守電を聞いただろう。 「敦弥さん…」 この一週間、ずっとこの留守電で我慢してきた。 でも、もう待てない。 たった一言でもいいから、敦弥さんの声を聞きたい。 ピーっと言う音と共に、私は留守電に声を吹き込もうとした。 「敦弥さん…元気にしてる?ちゃんと、ご飯食べてる?……」 そんな言葉しか言えなくて、本当に言いたい事が言えない。 ― どうして急に、会ってくれなくなったの? ― 私に飽きたの? それとも、他に好きな人でもできたの? わからなくて、涙が出てくる。
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