第二十八章 決死行

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「――!?」  ヘクターの様子はまったく変わらない。血走った目をしながら、狂ったように青竜刀を木に叩きつけている。  あれ? 『キュア』の魔法が効いていない――  いや、違う!!    僕は確認のため、もう一度ヘクターに向かって『キュア』の魔法を唱えた。  すると、緑色の魔法の光が、ヘクターに届く前に跳ね返されたのがはっきりわかった。  やられた。  ヒルダは僕が『キュア』を使うことを予想して、あらかじめヘクターに魔法を跳ね返す『リフレクション』をかけておいたのだ。  あるいは、ここまで長い時間『リフレクション』の効果が続くということは、なにか強力なマジックアイテムをヘクターに使用したのかもしれない。  いずれにせよ、今のヘクターには『キュア』――いや、どんな魔法も跳ね返されてしまう。  意表を突かれ焦る僕の存在に、ヘクターが気付いた。  その途端に、攻撃対象が変わる。  木を切り倒すことを中断したヘクターは、青竜刀を振り上げて、雄叫びを上げながらいきなりこちらに向かってきたのだ。   ほとんど一瞬で間を詰められてしまい、恐怖すら感じる暇さえなかった。  エルスペスを背負ったまま、何もできないでいると、上の方からセフィーゼの呪文を唱える声が聞こえた。 『エアブレード!!』  風の刃がヘクター目がけて飛んできた。  いや待て!   今のヘクターに攻撃魔法を使っても跳ね返されてしまう。  むしろこっちが危ない――    が、僕たちの様子を木の上から見ていたセフィーゼには、そんなヘマはしなかった。  『エアブレード』は、ヘクター本人ではなく、その武器、つまり青竜刀を狙って放たれたのだ。  二メートル近い長さのある青竜刀に『リフレクション』の効果は及ばない。  そして風の刃は魔法の壁に跳ねかえされることなく、見事、青竜刀の刃と柄をすっぱり二つに切断したのだった。  いくら狂戦士状態だとはいえ、突然武器を失ったヘクターは驚いていったん攻撃を止めた。  そこへ―― 「ヘクター! あなたの相手はこの私よ!」  セフィーゼが木の上から地面にひらりと着地して言った。 「グオオォ……」  ヘクターが唸る。  狂戦士の注意が再びセフィーゼに戻ったのだ。 「そんな風になって、可哀そうなヘクター……。さあ、こっちに来て!」  セフィーゼが手招きをして、ヒルダが待ち構えている森の奥とは逆方向に、走り出した。  彼女は自分が囮になってヘクターを引きつけ、僕たちを先に行かせる気だ。    「ねえ、早く!!」  セフィーゼの単純な作戦に、ヘクターは釣られた。  獲物を追う肉食動物のように、逃げるセフィーゼを捕まえようと突進を始めたのだ。 「ユウト――早く! ヘクターのことは私にまかせてあなたは魔女(ヒルダ)を倒して!」  ソフィーゼはそう叫び、深い森の中へ入っていった。  ヘクターもそれを追って、僕の前から姿を消した。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  こうしてついに、背中のエルスペスは別として、僕は一人ぼっちになってしまった。  ヒルダとの対決はもう目の前に迫っているというのに、果たしてこんなことであの恐ろしい魔女に勝てるのか?  リナを無事に救い出すことができるのか?  それは99%不可能なことと思われた。  ただし――  残りの1%、たった一つのある方法を除いては……。  
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