第二十六章 王女殿下がXXXの丸焼きをお召し上がりなるまで 

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 せっかく敵を一時的に追い払い、先行きに明るい兆しが見えて来たところで、場の雰囲気が一気に悪くなってしまった。  援軍が到着するまで、まだまだ協力しあって耐えなければならないのに、こんなことでまた騎士と兵士に軋轢が生じてしまってはたいへんだ――  と、やきもきしていると、城壁の上を走ってくるエリックが見えた。 「おおユウト、この魔法の明かりはやっぱりお前だったんだな!」  エリックが大声で叫ぶ。 「エリック!」 「本当に助かったぜ。みんなイーザの連中の歌にすっかりやられて、何言っても腑抜けの間抜け状態になっちまってたからな――おい、お前ら、ユウトによく感謝しておけよ。ユウトが魔法で罠を破らなかったら、下手すりゃ今ごろ城はあっさり落ちて、みんな殺されてかもしれんぜ」  さすが戦いに馴れた、歴戦の戦士エリック。  他の兵士のように、敵の計略に簡単に引っかかるような人ではないのだ。    「ところでマティアス様、今、マティアス様の怒鳴り声がちょいと聞こえたんですがね」  と、エリックは相変わらず物おじしない様子で、マティアスに言った。 「差し出がましい具申ですが、今は思い切ってみんなを休ませるべきじゃないですかね。これから寝ずの番をやらせるってのは、いくらんなんでも酷ですぜ」 「うむ……だがな」  と、渋るマティアス。 「マティアス様が慎重になるのはわかりますが、なーに、敵のあの様子だと、城攻めを再開するまでにはしばらく時間がかかる。……そうですね、少なくとも明朝まではまず安心でしょう」  エリックはマティアスを説得しつつ、アリスの方を向いた。 「王女殿下、如何でしょう? 是非、ご裁断をお願いします」     「うむ……。私はエリックの意見を取る」  アリスは、ほぼ即答した。 「みな、今晩はゆっくり休め。見張りは残った竜騎士たちに任せればよい。――それでいいな、マティアス」 「御意……」  アリスの判断に、兵士たちの間から歓声が上る。  どうやら、これでまたアリスは、彼らの信望を集めることに成功したらしい。
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